もてなしの源流、茶事

伝統と品格、格式と心づかい、美学の境地に迫る味覚。 これら全てが整った「おもてなし」を受けたことはありますでしょうか? 茶事とは、千利休に始まり400年以上の古い歴史を持つ、名実共に最高のもてなし文化。 ひとたび参加すれば、それは単なる「体験」「思い出」ではなく、一生ものの【経験】になります。

日本の精神文化と言えば、武士道とおもてなし。 その「もてなし文化」は千利休が作りだした茶事、すなわち茶道によって生み出されました。 茶道は江戸時代には多くの大名や豪商達、明治以降には財閥のトップや政治家達など、その時代の富と権力の絶頂にいる人々によって成長し、現代の「おもてなし」を支える精神と礼儀作法の根本となりました。

裏千家DVD 茶の湯 茶事偏 ~正午の茶事・炉~より

茶人が催す茶事(炉)の流れ

お出迎え、蹲踞、席入り

茶事はお客様のお出迎えより始まります。 まずは待合で靴下を白く清潔な物に履き替えていただいてから庭に出て、神社で神様に詣でる時に手水舎で手と口を清めるのと同じように蹲踞で手と口を清めていただき、いよいよ席入り。  お客様には席中で懐石を召し上がっていただく時の作法を簡単に説明致します。

初炭点前

茶事と言う静かなるエンターテイメントの口火を切るのは、初炭点前(しょずみでまえ)。炭点前とはその名の通り、炉の中に炭を足していく作業を点前として様式美化したものです。美しい所作と共に、炭を的確に次いでいくことで、釜に入った水がゆっくりと時間を掛けて、徐々に沸騰していきます。

炭と炭の間にちょうど良い隙間が無くては種火が酸欠状態になり火が消えますし、隙間が空きすぎていたら酸素が入りすぎて炭が燃えすぎて湯が早く沸きすぎたり炭が燃え尽きるのが早すぎたりもします。つまり炭を的確に次ぐと言うのは、その茶事全体の流れや空気感をコントロールする根幹であり、茶人のあらゆる技術の真骨頂。

特に「枝炭」と呼ばれる、石灰を塗った白い細い炭を箸ではさんで炉に入れる所作がございますが、これを本来の作法通り五本まとめて箸で挟む事ができる茶人はごく稀。炭点前の見所の一つともなります。炭点前は茶事の基礎でありながら最も重要な部分を占める、茶事における「いきなりのクライマックス」とも言えます。言い換えると、炭点前をスムーズに進められない茶人はまだまだ修行不足、人をもてなすには役不足でもあります。

湯が沸くまでの間にお客様には懐石料理を召し上がって頂きますが、徐々に沸き立つ湯がシュンシュンと音を立て、それは得も言われぬ風情をかもし出します。そのシュンシュンとした音を、茶の世界では「松風(まつかぜ)」と呼んでおり、茶のもてなしの醍醐味の一つでも御座います。

ちなみに風炉の季節になると、懐石が先にはじまり、その締めくくりとして初炭点前が披露されます。 写真は炉の炭点前です。

懐石料理

和を最も感じられる料理・・・ 季節を愛し、それぞれの季節にあった様々な一品料理で構成された、一汁三菜と言う日本ならではの料理に対する哲学を具現化したもの、それが懐石料理です。懐石料理はもともと、茶の湯の世界から生まれた、茶を存分に楽しむためのお料理のスタイルを指します。

がっつく事なく、少しずつ味わいながらいただく懐石料理は、ただ「美味い」だけではありません。口の中に広がる味わい、心にスっと沁み入る香り、食欲を満たすために計算しつくされた歯ごたえ・・・何もかもが、ただ「茶を味わう」ための準備段階として用意されています。

今では茶懐石と呼ばれるようになった懐石料理、日本国内の和食の料理人でも茶懐石を調理できるのは1000名に1人いるかいないか。
それだけに彼ら懐石料理人は非常にプライドが高く、そんな彼らに「味が濃い」「もう少し味を調整しろ」と指示でき、しかもそれに従ってもらえる茶人は1万人に1人もいないことでしょう。

弊社代表・小早川宗護は懐石料理人たちに指示をするため、常日頃から自らの舌を磨き、今では多くの料理人達に慕われるほどにまで鋭敏な味覚を持つまでになりました。
懐石は「ただ出せば良い」「ただ規矩に従えば良い」と言うものではなく、お客様のお腹をほどよく満たしつつ、茶味の邪魔をしない味付けが肝要。
これを心底理解し、料理人に細かく指示を出せる茶人は他にはおりません。

献立

弊社の懐石料理は基本的に以下のような構成になっています(10月の場合)。

四ツ碗 : 汁物(揚粟麩 木の芽 合わせ味噌仕立 落し辛子)、白飯一文字

向付 : 鮪、造り醤油

煮物椀 : 茶布胡麻豆腐 柚子 松茸 青菜

飯器 : 白飯

焼物 : 明石鯛 西京焼き はじかみ

預け鉢 : 炊き合わせ(海老芋 車海老 茄子 隠元豆 南瓜)

強肴 : 酢の物(胡瓜 茗荷 菊花 水前寺 鮑 松茸 加減酢)

小吸 : 梅仕立 零余子

八寸 : 小判烏魚子 渋皮栗

湯桶・香物 : 茶漬け、漬物

懐石料理は12の品々から成り立っており、それをおよそ1時間半~2時間ほどかけてゆっくりお召し上がり頂く、まさしく和のフルコースです。
佗茶の世界観を象徴するかの如くいずれも極めて薄味で作られており、和食の料理人を1000名集めても懐石料理を満足に調理できるのはわずか1人か、2人いれば良いほう。それほどまでにハイレベルだからこそ、料理人の腕前が厳しく試されるのです。

水屋では亭主が一つ一つの味をチェックし、料理人に極めて厳しい指示を与えております。
ご飯の炊き加減、出汁の味わいのチェック、味噌汁の味噌の強さなど事細かい指示を出すことで料理人達の魂に火を点け、常に最高のパフォーマンスを維持させる。
つまり茶人CHABITOがお客様にお出しする茶懐石とは、あらゆる料理の世界の頂点、最高峰であることに疑いの余地はありません。

菓子

懐石を締めくくるのが、生菓子

茶事のご依頼をいただくたびに亭主が菓子屋とじっくり話し合い、その茶事に最も適したオリジナルの菓子を作らせます。亭主は必ず試作品のデザインや味わいを入念にチェックした上でさらなる細かい指示をだし、菓子屋は茶事の日程に併せて本番用の菓子を作ることになります。

そこまで徹底するからこそ出来上がる季節感を大切にした生菓子は、口の中いっぱいに軽やかな甘さが広がり、次に用意されている濃茶への期待をより一層引き立てつつお客様をさらなる茶事への没入感にいざないます。

中立、休憩、濃茶作法講座、蹲踞

お菓子を召し上がって頂いたら、一旦席を出て待合に戻り、休憩時間となります。その間にお手洗いなどを済ませ、足を休めて頂きます。また、濃茶の作法を簡単にご説明申し上げます。

席の準備が整いましたら、銅鑼をならしてお知らせ致します。この銅鑼の音は、それまで柔らかかった空気を一気に引き締め、茶事の本番である濃茶点前の荘厳な雰囲気を予想させます。

濃茶点前

あなたは濃茶を味わったことがあるでしょうか。濃茶とは、いわゆる「抹茶」と呼ばれる薄茶とは全く異なり、文字通り色も味わいも極めて濃い、そして深い抹茶です。 日本の茶道はこの「濃茶」をメインに構成されており、この濃茶を味わわない限り、抹茶を飲んだ味わったうちには入りません。

薄茶は「たてる」と申しますが、濃茶は「練る」と申します。 練ると言う表現を用いるほど濃い抹茶なのですが、これを「美味しく練る」のには相当な修練が必要となります。

茶の道に修道して、少なくとも30年は修行を積まなくては、濃茶の旨味を引き出す事はまず不可能。 しかもただ「お茶を習っていれば良い」ではなく、本当に良い師範について修行を積み、みずからも師範代となって人を指導し、さらには命を削る覚悟で茶に向き合うことができなくては、本当の茶の味を引き出すことなど出来ようはずもありません。

濃茶を練る上において特に大切なのは、点前を進めながらも禅の精神にもとづく「無」の境地に至ること。茶碗に抹茶と湯を入れ、茶筅を手にした瞬間に完全なる無へと自らを導くことが出来なくては、濃茶は決してその本来の姿を見せることはありません。そもそも茶道とは単なるお点前のレッスンと言うだけでなく、茶禅の思想にもとづき自らの精神修養を極めていくものなのです。

そこまで突き詰められた技術と無の境地に入ることで練り上げられる濃茶をひとたび口に運べば、思わず言葉を失ってしまうほど甘くて香り高く、そして豊かな味わいが、口の中いっぱいに広がります。430年前、千利休が構築した茶事の本来の目的は、この濃茶を味わうこと。

席中は薄暗く、障子や欄間より差し込む自然光のみで茶事が進んで参ります。 その厳粛な雰囲気があるからこそ口の中に含まれる濃茶の味を最大限に引き立てることができ、濃茶こそ真の抹茶であることを証明してくれます。

後炭、休憩

席入にはじまり、ここまでで既に3時間。懐石や濃茶席などの時間を経て炭が燃え尽きかけますが、薄茶席に向けて新しい炭を次ぐ点前を後炭点前(ごずみでまえ)と呼びます。 ここからはお客様にリラックスしていただくため、後炭点前をご覧頂きましたら休憩時間を少々ご用意致しております。 その間に足を休めて頂き、茶事の締めくくりである薄茶点前の楽しさを思い描いて頂けます。 また、薄茶作法について簡単にご説明申し上げます。

薄茶点前

一般的に「お抹茶」と呼ばれる薄茶。 お抹茶と言えば「苦い」と言うのが一般論ですが、実は抹茶は「甘い」ものなのです。 濃茶の後にいただく薄茶は、濃茶で深く味わった喉を清涼感で一杯にしつつ、それでいて香り高く、美味しく喉を潤します。

濃い茶席の厳粛な空気感から一転、障子や窓を開け放つことで一気に開放感あふれる茶席へときりかわり、点前作法をもっとも楽しむことが出来るのが薄茶点前。薄茶席では写真撮影などもしていただけ、自由な空気感を味わうことも出来ます。

所作作法の見どころは、なんと言っても亭主の自然な動き。亭主は自らを「あらゆる茶道具の中で最も低い格にある」と考えます。そのため、茶道具を扱う手さばきは、常に可能な限り茶道具に無駄な動きをさせず、その分みずからが体の芯を使って動きます。

他の茶人とは異なり、茶筅で茶を点てる時も、茶筅が茶碗の底に当たりすぎないよう細心の注意を払うことで無駄な音を立てることはいたしませんし、釜や茶碗の中に湯を入れるときの水音にまで注意を払うものです。茶を点てている最中も、左手で茶碗を支えずとも茶碗が決して揺れない・ずれない事が、本当のプロフェッショナルの証だと言えます。

そして亭主が「あらゆる茶道具の中で最上位に位置するもの」と考える抹茶そのものを茶碗の中に掬い入れる時も、「茶を入れる」ではなく「茶を置く」ことで、茶に余計なストレスがかからぬように心がけております。

それらと同時に、軽快なトークでお客様に楽しい時間を過ごしていただく。こうした「ただお点前が上手」「ただお茶が美味しい」だけでなく、茶室という時空を超えた究極のもてなし空間において、総合的に極めて高次元なもてなしを展開することこそ、弊社の茶事であり、プロ茶人としての矜持でもございます。

茶事を締めくくるのに最も相応しい薄茶こそ、茶の究極の姿であり、茶の奥義です。 この薄茶点前で茶事は終了となりますが、極めて厳粛だった濃茶席に対して、薄茶席は明るくフランクな雰囲気で楽しんでいただくことが出来ます。

見送り

薄茶点前が済めば、これにて茶事の流れは全て終了したことになります。 お客様は順に茶室から退出して頂き、亭主はお客様を茶道口にてお見送り申し上げます。

お出迎えに始まり、お見送りまでおよそ5時間の単なる体験などと言う安っぽい表現ではおさまりきらない、文字通り人生経験の一つ。 是非茶事を体験して、一生の思い出を作って下さい。


予算

1~3名様  4時間程度  35万円~(税別)
4~6名様  5時間程度  50万円~(税別)

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